彗星探査機「ロゼッタ・フィラエ」
探査機とミッションについて
チュリモフゲラシメンコ彗星という彗星の観測を行おうとしている彗星探査機「ロゼッタ」。
開発費10億ユーロ、日本円にして1500億円ほどの「ロゼッタ」は2004年に欧州宇宙機関ESAがアリアン5ロケットで打ち上げた彗星探査機で、チュリモフゲラシメンコ彗星へと接近し、その観測と着陸を目指すという野心的な探査機です。
機体は約3000キログラムとかなり大型の機体で、約500キロの日本の小惑星探査機「はやぶさ」と比較すると約6倍ほどの重量があります。
目的の彗星へと接近するための軌道が木星軌道付近にまで及ぶため、太陽光が弱くなっても電力を供給できるよう、大型の太陽電池パドルが備わっています。
太陽電池の端から端までは32メートルもあります。新幹線電車は1両25メートルですがそれよりも長いです。
しかし木星付近にもなると地球近く等と比較して太陽電池パドルによる発電量が落ちるため、2011年から3年間「冬眠モード」へと移行し消費電力を最小限に抑えていました。
それが2014年の今年、タイマーによって再起動し、一路チュリモフゲラシメンコ彗星へと向かうこととなります。
探査機の諸元
運用 | ESA |
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打上機 | アリアン5G+ |
打上日 | 2004年3月2日 |
着陸日 | 2014年(予定) |
着陸地点 | チュリモフゲラシメンコ彗星 |
COSPAR-ID | 2004-006A |
重量 | 3000kg |
本体全長 | 2.8m |
本体全幅 | 2.1m |
本体全高 | 2.0m |
電源 | 2翼可動式太陽電池パドル |
科学観測機器 | ALICE:紫外線撮像分光計 CONSERT:電波サウンダ COSIMA:二次イオン質量分析計 GIADA:ダスト検出器 MIDAS:原子間力顕微鏡 MIRO:マイクロ波サウンダ OSIRIS:多波長カメラ ROSINA:圧力センサ・質量分析計 RPC:プラズマ環境観測機器群 RSI:電波科学実験 VIRTIS:可視光・近赤外分光計 |
彗星探査機「ロゼッタ」の歴史
ロゼッタの歴史は以外にも古く、1980年代にさかのぼります。
当時外惑星を探査した、ボイジャー計画などを成功させていたNASAは次世代の惑星探査計画として「マリナーMk.II」計画を開始しました。
1962年に初の惑星探査機として、金星をフライバイ観測した「マリナー2号」の流れを組む「マリナー・シリーズ」はアメリカの黎明期の惑星探査機として知られています。火星を観測した「マリナー4号」、水星を観測した「マリナー10号」なども有名な探査機です。ボイジャー計画も当初は「マリナー11号」「マリナー12号」として計画されたものが「ボイジャー1号」、「ボイジャー2号」として引き継がれたものでした。
この後に続く大型の惑星探査機としてアメリカが計画したのが「マリナーMk.II」計画でした。これは大型の機体に原子力電池搭載などを基本とした探査機で外惑星や小天体を探査しようとするものでした。
大型の外惑星探査機をシリーズ化するという点においては大変興味深い計画であり、90年代初頭にはマリナーMk.II計画における機体として土星探査機「SOTP(Saturn Orbiter/Titan Probe)」、彗星・小惑星探査機「CRAF(Comet Rendezvous Asteroid Flyby)」が計画されました。
他の計画としては、冥王星探査計画や海王星大気観測計画などが挙げられていましたが、このうちの冥王星探査計画は現在「ニューホライズンズ」として冥王星に向けて飛行を続けています。

当初計画されていた「CRAF」。画像右側に原子力電池が見えます。(Credit:NASA)
一方その頃、欧州宇宙機関ESAは、1986年のハレー彗星にあわせた世界各国の探査機群からなる、いわゆる「ハレー艦隊」のうちの一機として打ち上げた「ジオット」がハレー彗星の観測に成功しており、貴重な科学データを取得しました。
しかしそれと同時に彗星に関するより詳細な観測データが求められる事となり、ジオットの後継として新しい彗星探査計画が持ち上がっていました。そうした流れもあり、マリナーMk.II計画において彗星探査はNASAとESA共同で行われる事となりました。
これはNASAの彗星の接近観測を行う「CRAF」計画と、ESAは彗星核の一部を地球へ持ち帰ろうとするサンプルリターン計画として「CNSR」計画の二本立てで行われていましたが、NASAは予算不足により「CRAF」計画を中止してしまいました。この時「SOTP」として計画された土星探査機は後の「カッシーニ・ホイヘンス」として結実することとなります。カッシーニ・ホイヘンスもマリナーMk.IIの機体として設計されていた頃から予算の削減の影響により機器の一部が省略されるなどして縮小されています。
これに合わせてESAはサンプルリターンを行う「CNSR」計画を、NASAがやろうとしていた「CRAF」をベースとした計画へと切り替えて独自に開発を継続していくこととなりました。しかしESAも予算不足により1993年にはこのCRAF計画は一度中止され、機体の設計などを最初からやりなおすこととなりました。その際に小型の着陸機を含む現在のロゼッタのような形になりました。
現在運用中の探査機たち、「ニューホライズンズ」、「カッシーニ・ホイヘンス」、「ロゼッタ」はもともとはひとつのNASAの次世代大型惑星探査機のシリーズだったのです。
中止の危機を乗り越えてきたロゼッタでしたが、やっと打ち上げ予定であった2003年を目前にさらに問題が発生しました。
2002年の12月に打ち上げロケットであるアリアンVの打ち上げ失敗があったのです。能力向上型のアリアンV-ECAの初号機が一段目のヴァルカンエンジンのトラブルによって打ち上げに失敗してしまいました。
この影響でロゼッタも延期を余儀なくされ、そのため当初最終目的地として予定していたワータネン彗星への到達ができなくなってしまいました。そのため目的地をチュリモフゲラシメンコ彗星へと変更し、2004年3月2日に満を持して打ち上げられたのです。マリナーMk.IIから20年の歳月を経てロゼッタは宇宙へと飛び出したのです。

打ち上げを待つ探査機「ロゼッタ」。手前には着陸機「フィラエ」。巨大な太陽電池パドルは折りたたまれています。(Credit:ESA)
ロゼッタは地球を出発してから惑星の重力を利用して加速を行うスィングバイを何度か繰り返し、彗星へと向かう軌道に乗ります。まず翌年の2005年に地球でスィングバイを行い、さらに2年後に火星でスィングバイ、そしてさらに半年ちょっと後とさらにさらに2年後に地球で2回スィングバイを行い、3年間の冬眠を経て打ち上げから10年後の今年、やっと目的地であるチュリモフゲラシメンコ彗星へと辿り着く事となります。
この間、火星の北半球や衛星を撮影したほか、小惑星シュテインスやルテティアに接近して科学観測を行うなどもしました。
冬眠からやっと目覚めたロゼッタはこの後、チュリモフゲラシメンコへと接近し、11月には着陸機フィラエを着陸させる予定です。
どうか上手く成功し、素晴らしい科学データや画像を見せてくれる事を願っております。

チュリモフゲラシメンコ彗星に向かって着陸機「フィラエ」を投下する「ロゼッタ」(Credit:ESA)

彗星に降り立った着陸機「フィラエ」(Credit:ESA)
彗星探査機「ロゼッタ」の搭載機器
彗星の秘密を探るべく打ち上げられたロゼッタですが、どういった観測装置で調べるのでしょうか。機体に搭載されている様々なハイテク分析装置を見てみましょう。

多くの科学観測機器が搭載されている。(Credit:ESA)
- 多波長カメラ「OSIRIS」
- 紫外線撮像分光計「ALICE」
- 可視光・近赤外画像分光計「VIRTIS」
- マイクロ波サウンダ「MIRO」
- 圧力センサ・質量分析計「ROSINA」
- 二次イオン質量分析計「COSIMA」
- 原子間力顕微鏡「MIDAS」
- 電波サウンダ「CONSERT」
- ダスト検出器「GIADA」
- プラズマ環境観測機器群「PRC」
- 電波科学実験「RSI」
OSIRIS:オサイレス
Optical, Spectrocopic and Infrared Remote Imaging System

(Credit:ESA)
可視光・近赤外光・紫外光など幅広い波長域の光を観測可能な2機のカメラです。広角のOSIRIS-WAC、狭角のOSIRIS-NACの2つで構成されており、広い視野で彗星から放出されるガスやダストを観測することができます。複数のフィルタを備えており、観測波長を選択できます。
ALICE:アリス
ALICE Ultraviolet Imaging Spectrometer

(Credit:ESA)
紫外線撮像分光計です。コマとテイルに含まれているガスを分析するための紫外線分光計です。205nmの極端紫外線を観測し、彗星核から放出される水や一酸化炭素、二酸化炭素などの放出量を計測するほか、彗星表面の組成を分析します。 ほぼ同等品の装置がNASAの冥王星探査機「ニューホライズンズ」にも搭載されており、こちらは「P-ALICE」と呼ばれ、ロゼッタに搭載されている「R-ALICE」とは観測波長などが若干異なっています。
VIRTIS:ヴァーチス
Visible and Infrared Thermal Imaging Spectrometer

(Credit:ESA)
3つの観測バンドを持つ可視光・近赤外画像分光計です。うち2つがマッピング分光計で、可視光チャンネルと近赤外チャンネルに分かれています。残り1つは高分解能画像分光計となっており近赤外チャンネルのとなっています。マッピング分光計は比較的広い範囲を分光観測し、高分解能画像分光計は狭い範囲を高分解能で細かく分光観測することができます。
MIRO:ミロ
Microwave Instrument for the Rosetta Orbiter

(Credit:ESA)
マイクロ波サウンダです。GHz帯の電波を利用する観測装置です。彗星核やコマから放出されるガスの性質を観測する装置です。188GHzのミリ波と、557GHzのサブミリ波を用いて観測する事で彗星の主な主成分である水、酸素同位体、アンモニア、一酸化炭素、メタノールなどの観測を行います。また、彗星核の地下数センチまでの地下の温度を測定し、氷の昇華がもたらす彗星核への影響、氷や塵の層の厚さ、ダストやガスの放出に伴う電気的、熱的な変化を観測します。着陸機フィラエの着陸地点決定にも用いられます。
ROSINA:ロジーナ
Rosetta Orbiter Spectrometer for Ion and Neutral Analysis

(Credit:ESA)
2つの質量分析計と1つ圧力センサを組み合わせた装置群です。彗星のコマと太陽風によって作り出される電離層の組成を分析します。質量分析計は彗星の大気や電離層の成分のほかガスやイオンの平均流速や温度を観測し、圧力センサはガスの密度や速度を観測します。これにより彗星のガスやダストにどのような物質が含まれているか、また周囲の状態と電離層の関係などを分析できます。
「二重収束形質量分析計(DFMS)」
湾曲した電場と磁場に沿って運動するイオンを運動エネルギーによって振り分ける事で、どういった物質がどれくらい含まれているかを分析できる質量分析系です。ガスを分析する場合と、イオンを分析する場合とで2つのモードを切り替えての使用が可能です。
「飛行時間型質量分析計(RTOF)」
ガスを観測するガスモードではガスの中性粒子に電子に衝突させてその二次イオンを分析できるように最適化され、イオンを観測する場合は彗星由来のイオンを直接観測できるようにに最適化されるようモードを切り替えて運用されます。
「彗星圧力センサ(COPS)」
ベアード・アルバート型電離真空計と呼ばれる装置を用いて彗星由来のガスの密度や速度を分析します。気体の分子に電子が衝突することで生まれるイオンを測定することでその圧力を計測することができます。
COSIMA:コージマ
Cometary Secondary Ion Mass Analyser

(Credit:ESA)
飛行時間二次イオン質量分析計(TOF-SIMS)です。一次イオンビームと呼ばれる荷電粒子を観測したいダスト成分に照射し、その際に成分の表面から放出される荷電粒子(二次イオン)がドラフトチューブと呼ばれる管を通過する時間を計測することでその重さを特定し、それがどういった物質であるかを知ることができます。これにより彗星から放出されたダストに有機物が含まれているかどうかを調べることができます。
MIDAS:ミダス
Micro-Imaging Dust Analysis System

(Credit:ESA)
原子間力顕微鏡を利用したマイクロイメージングダスト分析システムです。彗星の周囲の塵環境を解析するための装置です。顕微鏡の一種で、ナノメートルサイズのダストも撮影可能な高性能顕微鏡です。ダストの体積や形状のほか、その大きさや形ごとの分布、ダストの密度の時間的な変化などを観測することができます。
CONSERT:コンサート
Comet Nucleus Sounding Experiment by Radiowave Transmission

(Credit:ESA)
電波サウンダーです。彗星核の内部を探るための電波サウンダーです。彗星に向かって照射した90MHzの電波の反射を見ることで、彗星の密度の分布などの内部構造や組成を探ることができます。電波が地下に潜っていく事で実際に彗星を割ったりしなくてもその内部構造がわかります。
GIADA:ジアダ
Grain Impact Analyser and Dust Accumulator

(Credit:ESA)
ダスト検出器です。圧電素子とレーザダイオードを組み合わせる事で、検出器内に入ってきたダストの速度や衝突エネルギーを分析出来る装置です。どれくらいの重さのダストがどれくらいのスピードでどれくらい存在しているのかがわかります。彗星のテイルから放出されるダストがその速度と大きさにどういった関係があるのか、といった研究を行います。
RPC
Rosetta Plasma Consortium

(Credit:ESA)
彗星の周囲のプラズマ環境を観測する複数の装置群です。
ICA:イオン組成アナライザ
イオンの質量分布や速度分布を三次元で観測します。
IES:イオン・電子センサ
彗星を取り巻いているプラズマに含まれてる電子やイオンのフラックス(密度)を観測します。
LAP:ラングミュアプローブ
彗星のプラズマの密度、温度、流速を観測します。
MAG:フラックスゲート磁力計
太陽風と彗星のプラズマが相互作用する際に生じる磁界を観測します。
MIP:相互インピーダンスプローブ
彗星のコマ内のガスに含まれている電子の密度や温度、ドリフト速度を観測します。
RSI
Radio Science Investigation
これはロゼッタ単体の観測装置ではなく、地球の地上通信局と組み合わせる事で行われる「電波科学実験」と呼ばれる観測です。ロゼッタに搭載された「超安定発振器(USO)」からは非常に安定した電波が照射され、彗星のコマやダストを通過させたその電波を観測することで彗星のコマやダストの研究を行う「掩蔽観測」の他、探査機の動きから彗星の重力場を分析することもできます。
サンプラー掘削分配装置「SD2」
彗星探査機「ロゼッタ」には着陸機「フィラエ」が備わっています。彗星周辺を周回しながら探査を行う「ロゼッタ」に対し、「フィラエ」は着陸装置を用いて彗星表面へ直接着陸する能力を持ちます。その中でも「SD2」と呼ばれるドリルは彗星内部の物質の分析を可能にするというユニークな装備です。

フィラエの背面部分に設置された「SD2」(Credit:ESA)
この「SD2」はドリルを用いて地中のサンプルを採取し、分析装置へと輸送するまでのシステムとして備わっています。着陸による科学ミッションで非常に重要な役割を果たしますが、大きさや重量、消費電力や動作させる環境は極限そのものであります。
ロゼッタのミッションは太陽系創世や生命誕生に関わる謎を、彗星の探査によって解き明かそうというものです。そのため彗星の強度などの構造、密度、熱的な特性、そしてどういった物質がどれくらい、どういう分布で存在しているかを知る必要があります。
「SD2」は地中を掘削するためのドリルによって10~40立方ミリメートル程の試料を深さ23センチから採取することができます。
「SD2」の概要

左の黒いのが電子機器ユニット右の白いのが機械ユニット(Credit:ESA)
システムは全体で5.1kgの重量を持ちます。うち3.7kgは機械ユニットでドリルの駆動部などが備わっています。他に電子機器ユニットが1kg、ケーブル類が400グラム等となっています。
電力が制限された宇宙空間で使用する必要があるため消費電力も最小限に抑えられています。スタンバイ時で1.5W、掘削時も平均で6W、最大で14.5Wの消費電力となっています。
機械ユニットはツールボックスと呼ばれるケースに覆われて「フィラエ」に外付けされています。ツールボックスは採取したサンプルの汚染を防ぎ、内部の機器を保護する役割があります。
ドリルボックス
機械ユニットにはドリルが内臓されており、そのドリルビットは硬い材料でも穴を開けられるよう、多結晶ダイヤモンドを用いた非常に硬いものとなっています。これは彗星核がどういった状態でどれくらい硬いかがハッキリとはわからないため、だいたいの状況に対応できるようにするためです。ドリルを垂直に押す力は100ニュートン程度で、最大14.5Wという低い消費電力も最大限の掘削能力を確保できるよう、シミュレーションが試験が重ねられました。

ダイヤモンドドリルの中心にサンプル採取用の機構がある(Credit:ESA)
ドリル機構と、サンプル採取と排出の機構が独立して作動するようになっているため、彗星の状況に応じてこの動きの組み合わせを変えてサンプルを採取できるようになっています。ドリルによる掘削を行った後、サンプリング機構がサンプルの収集を行います。
ドリルの中心部に設置されたサンプル採取機構は上下にピストン運動が可能なため、サンプルの採取や排出はこの部分の動作によって行われます。
カルーセル
カルーセルとは回転する小さなテーブルのようなものです。これはサンプル採取機構によって採取されたサンプルを加熱するためのオーブンが26個搭載されています。ステッピングモータにより回転し、機械的な接触部分を持たないように設計されているため、低温かつ塵の多い彗星表面の環境において固着してしまったり、塵が詰まってしまうことによる動作不良が起こりにくくなっています。
オーブン

カルーセルの円周上に配置されたオーブン(金色の部分)(Credit:ESA)
カルーセルに載せられたサンプルはカルーセルの回転によりオーブンに収納されます。摂氏180度まで加熱可能な中温オーブン(MTO)が10個、摂氏800度まで加熱可能な高温オーブン(HTO)が16個、2種類が搭載されています。これは温度によって異なる揮発成分を科学機器で検出できるようにするためです。オーブンには加熱用コイルと温度センサが設置されており、SD2の電子機器ユニットに接続されています。また、オーブンに投入された物質の量を計測するためのボリュームチェッカーと呼ばれるセンサも搭載されています。
科学分析機器
カルーセル上のサンプルはCIVA、COSAC、PTOLEMYといった科学観測機器により分析がなされます。
CIVA
CIVAは可視・赤外線分光計です。波長によってどういった物質がどれくらい含まれているかを知ることができます。フィラエには彗星表面を広範囲に観測するための「CIVA-P」と、フィラエ内部でSD2のカルーセル上のサンプルを観測するための「CIVA-M」が搭載されています。「CIVA-M」は赤外線と可視光で小型顕微鏡が2つ搭載されています。後述のCOSACやPTOLEMYでの分析を行う前にこの「CIVA-M」での分光分析を行います。
COSAC

質量分析計とガスクロマトグラフを持つ「COSAC」(Credit:ESA)
COSACはガスクロマトグラフと飛行時間型質量分析計によって構成される装置です。これは生命の元となる複雑な有機化合物の検出を行うことができます。地球誕生当時の高温環境では複雑な有機化合物を造りだすには熱すぎる環境であったと考えられています。そのため地球がある程度冷えた後、彗星によってもたらされたというパンスペルミア説が提唱されています。このCOSACで有機化合物が検出されれば、生命の歴史の一部を知ることができるでしょう。
PTOLEMY

軽元素に対応する質量分析計「PTOLEMY」(Credit:ESA)
COSACと似た装置です。オーブンによって揮発されたガスをPTOLEMY内部の3つのオーブンに輸送します。加熱されたガスは質量分析計に送られ、何がどれくらい含まれているかを分析できます。PTOLEMYは炭素や窒素、酸素といった軽元素の検出に特化されています。そのため水や一酸化炭素などの軽い有機物の検出に用いられます。