核兵器の起爆装置「イニシエータ」

中性子による核分裂連鎖反応を最初に開始させる火種のようなものです。即発超臨界状態へと到達させるための重要な構成要素であり、これはインプロージョン型核兵器では最大限に爆縮されて臨界質量を大幅に突破した状態で連鎖反応が開始されるように工夫されています。核分裂性物質が臨界量を少し超えたくらいで連鎖反応が開始されてしまうとその時点で核爆発が起きる事となり、多くの核分裂性物質が無駄になって飛び散ってしまいます。そうなれば核兵器として十分な核出力の達成が難しくなるため、起爆時には最適なタイミングで中性子を照射する必要があります。

ガンバレル型の原子爆弾の場合、この中性子源は必ずしも必要とはされませんが、起爆タイミングを制御する必要がある場合はこの中性子源が使用されます。

ベリリウム・ポロニウム中性子源

ポロニウム210等のアルファ崩壊を引き起こす核種にベリリウム9を組み合わせ、アルファ線によって中性子を発生させる(α,n)反応により中性子を発生させる方式が用いられます。原子炉を起動する際にはカリホルニウム252が中性子源として用いられますが、これは自発核分裂によって中性子を放出するために中性子の放出を制御する事ができません。そのためプルトニウム240のように過早爆発の原因となってしまいます。(α,n)反応を用いる方式であれば、遮蔽が容易というアルファ線の特徴を利用して起爆するまで中性子の発生を抑える事ができるのです。インプロージョン型の場合、ポロニウム210とベリリウムの間に遮蔽材となるものを入れておき、爆縮後に遮蔽材が破れてポロニウム210とベリリウムが直接接触するようにすればその瞬間に中性子が発生し、核分裂連鎖反応が開始されるという仕組みです。

球形に爆縮されるインプロージョン型核兵器の場合、この中性子源はコアの中心部に配置され、爆縮の衝撃波が到達した時点でベリリウムとポロニウムが混合し、中性子を発生する仕組みとなっています。混合のタイミングが、コアが爆縮によって最大まで圧縮された最適なものとするために構造が工夫されており、休憩の中性子源が外部からの衝撃波を受けて圧縮された時、中性子源の外側のベリリウムの内側が楔形になっていることで、衝撃波によるモンロー効果で流体となったベリリウムのジェットが生成され、そのジェットが中心部のポロニウムをコーティングした0.1ミリほどの厚さの金を貫通してポロニウムに衝突させるという構造になっています。

一方でポロニウム210の半減期は約138日と短いため、ミリグラム単位の量で中性子を発生させるのに十分なアルファ線を放出できるものの、長期間保管している場合などは定期的な交換が必要となります。

外部パルス中性子源

ENI(External Neutron Initiator)と呼ばれる小型の電子線加速器を用いた起爆方式です。中性子発生装置として静電核融合を用います。これは後述する水素爆弾などの核融合反応を用いた核兵器と同様に、重水素とトリチウムの核融合反応を利用するものですが、それらが原子爆弾による高温高圧の条件下で核融合を達成するのに対し、こちらは小さな加速器を利用した静電核融合と呼ばれる方式で核融合を引き起こし、中性子を発生させています。

全長数センチほどの真空管にはイオン源とターゲットがあり、真空管に強力なパルス電流が流れると重水素イオンが、ターゲットであるトリチウムの水素化合物とした金属に衝突することで、D-T反応を引き起こしています。ターゲットの水素化合物には初期のもので水素(トリチウム)化チタンが用いられていましたが、現在では水素(トリチウム)化スカンジウムが用いられています。

他に小型のベータトロンを利用し、数MeVという高いエネルギーのガンマ線を発生させ、そのガンマ線によって引き起こされる核反応である光核反応を用いた方法も可能ではありますが、実際にこのタイプが利用されているとする核兵器の情報はありません。

パルス中性子源にはイオンを生成して加速させるために大きな電流が必要となりますが、これは起爆用の雷管(EBW)用のパルス電源を利用できます。あらかじめコンデンサに蓄電しておき、それを一気に解放することで電力を得られます。雷管と同様に核兵器にはこうした高電圧機器が起爆に必須であり、その重量も考慮しなければなりません。

このパルス中性子源は起爆による爆縮時に最適なタイミングで中性子を照射させることができるということ、また照射ターゲットに利用するトリチウムの半減期は約12.3年とポロニウム210の約138日よりも長く、交換などのメンテナンスの負担を小さくできます。さらにこのパルス中性子源はベリリウム・ポロニウム中性子源のように爆縮の衝撃波を利用するものではないため、爆縮レンズの外側に設置することができ、そのためメンテナンスも容易になります。

こうしたパルス中性子源は非破壊検査や地質調査用の水分計などにも利用されているほか、同様の装置が火星探査車「キュリオシティ」にも火星内部の水分を探るための「DAN」にも搭載されています。

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