ウラン濃縮とは
ウランの全ての同位体は放射性です。天然に存在しているウランには主に核分裂しにくいウラン238と、核分裂しやすいウラン235に分けられます。他にもウラン234など、ウランの同位体にはたくさんの種類がありますが、主にこの2種類がウランの大部分を占めるため、原子力活動において重要です。またこのウラン238に対するウラン235の比率を高めるには「濃縮」という技術が使用されます。この濃縮をどれくらい行い、ウラン235の割合をどこまで高めるかは、用途によって異なります。
核分裂性物質であるウラン235は天然に存在するウラン同位体のうち、わずか0.7パーセント程しか存在しません。原子炉で利用する場合、重水炉や黒鉛炉などであればそのままの天然ウランでも利用できるという特徴があります。一方で多くの原子力発電所で使われる沸騰水型軽水炉(BWR:Boiling WaterReactor)や加圧水型軽水炉(PWR:Pressurized Water Reactor)といった軽水炉(LWR:Light-Water Reactor)で用いる場合は3パーセント程まで濃縮します。これは原子炉の冷却材として用いる軽水が、中性子の速度を落とすことで核分裂連鎖反応を起こしやすくする「減速材」としての役割を兼ねている一方、ある程度の中性子を吸収してしまう性質もあります。そのため吸収されて失われる分を濃さで補えるよう、濃縮を行っています。
また、核兵器には、ウラン235の割合を90パーセント以上にまでしたものが用いられます。原子炉で用いられるウランの濃縮度と比較すると、核兵器に用いられるウランの濃縮度は非常に高いものとなります。
天然ウランの大部分を占めているウラン238については、これは核分裂を引き起こしにくいウランの同位体です。ウラン238は原子炉においては核燃料の温度上昇に伴って中性子を吸収しやすくなる「ドップラー効果」が働き、原子炉の出力を安定させる役割を持つほか、中性子を吸収すると核分裂しやすい、核燃料として利用できるプルトニウム239へと変化します。さらにウラン238自身も、核分裂しにくいとは言え、高いエネルギーを持つ中性子(高速中性子)が当たると核分裂を引き起こすことができます。この性質を利用し、核兵器においては熱核兵器(水素爆弾)の外殻部分に使用され、核融合反応で生じた高速中性子によって核分裂反応を起こし、核出力(威力)を向上させる用途にも用いられます。また、ウラン238はその比重が重いことを利用し、インプロージョン型原子爆弾においてプルトニウムコアを正確に爆縮させるためのタンパーとして利用することもあります。
核分裂しやすいウランの同位体として、ウラン235以外には、ウラン233も挙げられます。ウラン233の特性はウラン235よりもどちらかと言えば後述のプルトニウム239に近くあります。特徴としてはウラン233の質量数に近い別の同位体の自発核分裂割合が小さく、核兵器に用いる場合こうした同位体による過早爆発を起こしにくいという特徴があります。例えばウラン233に質量数が近いウラン232の自発核分裂割合は、プルトニウム240のそれよりも1000分の1程度に抑えられます。ウラン233の生産は、原子炉でトリウム232に中性子を照射することで行えます。
一方そのウラン233に質量数が近いウラン232はアルファ崩壊核種で、半減期が約69年と短く、アルファ線の放出量は兵器級プルトニウムの3~6倍と非常に高くなります。アルファ粒子は軽元素に衝突すると中性子を生じさせてしまうため、自発核分裂由来の中性子と同じように核兵器の過早爆発の原因になってしまう場合があります。そのため軽元素の割合を百万分の1程度に抑え、限りなく純粋な金属ウランとして使用することで中性子の発生を抑えられます。中性子の影響が非常に小さいウラン233はガンバレル型核兵器にも使用可能です。しかしウラン232が崩壊することで生じるタリウム228は、ガンマ線量が高いという特徴があるため、核物質の製造や核兵器の製造・管理の上で対策が必要になります。