核融合のしくみ
「核融合（Nuclear Fusion）」とは文字通り原子核同士が融合する現象を指します。たとえば共に水素の同位体（同じ元素でも原子核の中性子の数が異なる物質）である重水素とトリチウム（三重水素）を融合させた時にはヘリウム4と中性子が同時に生み出されます。この時に大きなエネルギーが生み出されるのが核融合反応なのです。
重い元素であるウランやプルトニウム等によって引き起こされる「核分裂（Nuclear Fission）」は核融合とは逆で、原子核に中性子が入射することでその原子核が2つに分裂する現象です。こうした核分裂反応はトリウム以上の重い元素で引き起こされますが、逆に核融合反応は軽い元素によって引き起こされるのが特徴です。
同じ電荷を持つ粒子同士は反発する性質があり、これは「クーロン斥力（Coulomb Repulsion）」と呼ばれています。ちょうど磁石の同じ極同士が反発しあうのと同じようなイメージです。プラスの電荷を持つ原子核同士も反発し合う性質があるため、核融合反応を起こすにはそのクーロン斥力を乗り越えられるエネルギーが必要なのです。その条件は「ローソン条件（Lawson Criterion）」と呼ばれています。つまりローソン条件を達成し、クーロン斥力を突破させるための装置が核融合炉というわけです。
原子核のクーロン斥力はその原子核が大きいほど大きくなるため、ローソン条件も付随して厳しくなります。例えば重水素とトリチウムの核融合反応ではどちらも原子番号が1の水素の同位体であるのに対し、重水素とヘリウム3の核融合反応では原子番号が1の水素と、2のヘリウムの核融合であるためクーロン斥力が大きくなります。そのためより高い温度と圧力が必要になるのです。
核融合反応を起こす条件としてはだいたい約一億度という非常に高い温度が必要になります。これを実現するのが核融合炉です。核融合を実現するための条件を作り出す装置としての核融合炉には様々な方式が考えられています。核融合炉はまず核融合を起こすためのプラズマを作り出す必要があるため、エネルギー源として利用するにはそこから取り出されるエネルギーが、核融合炉の連続運転に必要なエネルギーを上回る必要があります。つまり核融合炉は外部から見ると、ある程度のエネルギーの入力に対して、それ以上に大きなエネルギーを出力するオーディオのアンプのような働きをするシステムなのです。
プラズマとは
プラズマ（Plasma）とは物質の状態のうち、原子核と電子がバラバラの状態になっている状態を指します。物質はその温度によって固体、液体、気体とその「相」が変化しますが、プラズマはその中でも「第四の相」と呼ばれる事もあります。特に核融合炉の場合は完全電離プラズマと呼ばれるもので、原子核から電子が全部引き剥がされて運動している状態となっています。原子の周囲に存在する電子を剥ぎ取ることで原子核同士が接近しやすい状態を作り出し、高エネルギー状態で原子核が核融合しやすくなるのです。
核融合炉では核融合反応を起こす際にまずこのプラズマ状態を作り出す事になるため、そのプラズマをどのように閉じ込めるかが重要なポイントになります。
自己点火条件とブレークイーブン
自己点火条件とは核融合反応によって生じる熱によってそこから次々に連鎖的に核融合反応が発生して燃料が燃焼していく状態を指します。重水素とトリチウムの核融合反応で生み出されたアルファ粒子の運動エネルギーによって加熱されることをアルファ加熱と呼び、この自己点火条件の達成には重要な存在です。
ブレークイーブン（Breakeven）とは核融合を引き起こすために投入したエネルギーに対して、核融合によって生じたエネルギーが上回る状態を指します。核融合を引き起こすには原子核同士の斥力を上回るだけのエネルギーを投入する必要がありますが、そのから得られるエネルギーが少なくてはエネルギー源として意味がありません。また、核融合反応で生じるエネルギーが単純に投入エネルギーを上回るだけではなく、電力に変換されて取り出される最終的なエネルギーが投入エネルギーを上回る必要があります。つまりエネルギーを変換する際に生じるロスも計算に入れなければいけません。そのためこのブレークイーブンを突破することは核融合のエネルギー利用でまず達成するべき目標とされています。
核融合炉の種類
核融合炉には磁場で閉じ込めたプラズマ内で核融合反応を起こす「磁場閉じ込め方式」や、レーザーや粒子線を用いて燃料を爆縮することで核融合反応を起こす「慣性閉じ込め方式」など、以下のような様々な種類があります。
| 磁場閉じ込め方式 | トカマク型 | |
| ヘリカル型 | ||
| 磁気ミラー型 | ||
| 慣性閉じ込め方式 | 高速点火 | |
| 中心点火 | 間接照射方式 | |
| 直接照射方式 | ||
| 焦電核融合 | ||
| 慣性静電場閉じ込め方式 | ||
BOOTHにて宇宙開発や原子力関連の同人誌を販売しております。
