板状核燃料「キャラメル」

様々な板状燃料

板状燃料の一つである「キャラメル燃料」

板状燃料の一つである「キャラメル燃料」(Credit:CEA)

原子力発電所などは核燃料はペレット燃料と呼ばれる円柱状の燃料が広く一般的に利用されています。二酸化ウランを円柱状に成型し、焼結させた上でジルカロイ等の被覆管内に一列に並べたものを燃料棒としています。

対して板状燃料は文字通り板状に加工された核燃料を指し、主に原子力艦の推進用原子炉や研究用原子炉などで用いられています。板状燃料の場合はその燃料板を束ねて集合体にしたものを燃料要素と呼びます。

板状燃料の材質としては、ウランやプルトニウム等の核燃料物質とアルミニウムの合金を一枚の板にしたウラン・アルミニウム合金燃料や、ウラン・アルミナイド-アルミニウム分散型燃料ウラン・シリサイド-アルミニウム分散型燃料などが利用されています。これまで多くの研究炉ではウラン全体のうちウラン235の占める割合が45パーセントや93パーセントといった高濃縮ウランを用いたアルミニウム合金燃料が用いられてきましたが、高濃縮ウランは核兵器転用への恐れがあるため核不拡散などの観点からアメリカのRERTR(研究炉燃料低濃縮化計画)によりウラン235の割合が20パーセント以下の低濃縮ウランへの転換が進められています。そのため減ったウラン235を補う為にウラン・アルミニウム合金燃料よりも燃料中のウラン密度を高くできるウラン・アルミナイド-アルミニウム分散型燃料、ウラン・シリサイド-アルミニウム分散型燃料が開発されました。

これにより原子炉や燃料要素の設計を変更せずに低濃縮ウランであっても高濃縮ウランを用いた時と同等の性能を維持できます。このように板状燃料は様々な種類が開発されています。

材質と組成 最高ウラン密度(g/cm3 用途
ウラン・アルミニウム(U-Al)合金燃料 0.75 以前の研究炉など
ウラン・アルミナイド-アルミニウム(UAlx-Al)分散型燃料 2.3 現行の研究炉(JRR-3M)など
ウラン・シリサイド-アルミニウム(U3Si2-Al)分散型燃料 4.8 現行の研究炉(JMTR)など
八酸化三ウラン-アルミニウム(U3O8-Al)分散型燃料 3.2 以前の研究炉(HFIR)など
二酸化ウラン(UO2)酸化物燃料 10.97 一般的な動力炉など
窒化ウラン(UN)窒化物燃料 14.32 将来の高速炉など

キャラメル燃料の特徴

キャラメル燃料の構造

キャラメル燃料の構造(Credit:ANL)

フランス原子力庁(CEA)によって開発され、研究用原子炉や原子力潜水艦等に用いられる「キャラメル燃料」と呼ばれるタイプの板状燃料は、各個の燃料体を二酸化ウランを縦横が20ミリ、高さが5ミリの直方体に成型しています。その燃料体の形がちょうどキャラメルに似ている事からこの名前が名付けられました。

ジルカロイ製の格子状の枠にキャラメル燃料体を並べ、さらに2枚のジルカロイの薄い被覆板で表裏から挟み込むようにしたものを一つの燃料板としています。それぞれのキャラメル燃料体はこの格子状の枠によって独立しているのがポイントです。こうしたキャラメル燃料が持つ特徴をまとめてみました。

高い冷却性能

燃料の体積に対して水などの冷却材による冷却面積が広いため、燃料温度を低温に保つことができます。これにより燃焼に伴って核燃料に蓄積する核分裂生成物(FP)のガス等の移動が起きにくくなり、燃料体に閉じ込めることができます。また、燃料要素の内圧上昇やスウェリング(燃焼による膨張)が殆ど起きません。そのため一般的な棒状の燃料棒に設けられた燃料体と被覆の間に存在するギャップを不要にしています。これによりさらに冷却されやすくなるというメリットもあります。核分裂生成物が燃料体に閉じ込められやすいため、ジルカロイの被覆が万が一破損してもそれらが一次冷却水中に放出される量を抑えられます。

原子炉の冷却材喪失事故(LOCA)においても燃料の温度を低くできることから安全性を高められます。

損傷が起きづらい

二酸化ウラン内部に水分が微量に残っていた場合に、これが高温になることで被覆のジルカロイとの化学反応によって生じる水素化や、核分裂生成物に含まれるハロゲン元素による腐食などが起こりえます。しかしジルカロイの格子により小さな区画に仕切られているキャラメル燃料ではそうした化学反応を生じさせるだけの水分やハロゲン元素が少なくできます。そのため燃料の損傷が起きにくく、また区画構造により被覆破損による一次冷却水に対する汚染を小さく抑えられます

高い剛性

燃料体が格子の中にはめ込まれた構造であり、また燃料版は棒状の燃料棒よりも断面積が約5倍ほどあることから非常に剛性が高く、頑丈な構造になっています。燃料板を束ねた燃料要素自体も燃料板の端部をガイドスペーサと呼ばれる燃料板同士の空間を設けるための部品で固定されているだけの簡素な構造であるため、振動や衝撃にも強くなっています。そのため燃料取り扱い時や事故時においても安全性を高められます。この頑丈さがあるからこそ、振動や衝撃を受けやすい原子力潜水艦等の艦船に搭載される原子炉(舶用炉)に適しています

参考文献:
フランス原子力庁 加圧水型炉、高速中性子炉の核燃料工学(丸善プラネット)
改良型舶用炉の試設計の評価(2) -燃料特性(II);キャラメル燃料(板状燃料)-
A STUDY OF UO2 WAFER FUEL FOR VERY HIGH-POWER RESEARCH REACTORS

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