プルトニウム238と核拡散抵抗性

プルトニウムの活用

崩壊熱で赤熱する原子力電池用のプルトニウム238

崩壊熱で赤熱する原子力電池用の
プルトニウム238(Credit:USDOE)

人工元素であるプルトニウムは様々な用途で利用されています。例えば同位体のうちプルトニウム239は原子力発電で利用されていますし、プルトニウム238は原子力電池で利用されています。

原子力発電におけるプルトニウム239の利用は核燃料サイクルを実現する重要な資源となります。しかし一方でプルトニウム239の同位体比率が93%を超える、いわゆる兵器級プルトニウムは核兵器用の核物質として利用されます。

つまり原子力発電における核燃料サイクルにおいて、それらの核燃料が出来る限り核兵器に転用されにくいこと、つまり核拡散抵抗性が高くある必要があります。

これは不用意に核兵器の拡散を防ぐという目的の他、外国に対して原子力発電を利用しつつも核兵器を持たないという意思を表す事にもつながります。

世界的にもプルトニウムはその量が厳重に扱われ、輸出入にも厳しい規制がありますが、核拡散抵抗性の高い核燃料を利用することでこれらの規制をある程度緩和することができ、核燃料を柔軟に取り扱う事ができます。

核兵器のしくみと核拡散抵抗性

プルトニウムを用いる核兵器はインプロージョン型(爆縮型)と呼ばれ、臨界量未満の金属プルトニウムを外部から一気に圧縮し、密度を急上昇させて臨界量を一気に突破し、即発中性子による超臨界状態を発生させる事で核爆発を引き起こします。

核兵器においてはこの爆縮を行なっている間、できる限り中性子の発生を抑える必要があります。十分に圧縮されていない状態で中性子が核分裂連鎖反応を引き起こし始めると、そこから超臨界状態へと至ってしまい、核物質がほとんど反応を起こさないまま小さい爆発を引き起こして飛び散ってしまう「過早爆発」に至ります。

プルトニウムの同位体の中には自発核分裂と呼ばれる、一定の確率で自然に核分裂して中性子を放出する現象を引き起こしやすい同位体としてプルトニウム240が挙げられます。

自発核分裂によって発生する中性子をできる限り抑える必要があるため、核兵器に用いるプルトニウムは、プルトニウム240の同位体比率が7パーセント未満のものが利用されています。

またこれは原子力電池に用いられるプルトニウム238にも同様の性質が見られ、自発核分裂を引き起こしやすくあります。

さらにプルトニウム238や240といった自発核分裂を引き起こしやすい同位体はその半減期が比較的短い傾向にあります。そのため単位時間あたりに放出される崩壊熱も大きく、断熱された容器の中に閉じ込めておくと温度が急上昇し、プルトニウム自体が溶融してしまいます。

こうした熱的な性質も、核兵器を製造する上で大きな問題となります。核兵器の爆縮用の爆薬を劣化させたり、起爆用の電子機器を壊してしまうのです。

つまり逆に核兵器に転用しにくい、平和のための核燃料を作るのにあたってはこれらの同位体が多いほうが良いのです。

原子炉での人工元素生成

もともと、一般的な軽水炉などで燃焼させた核燃料は長期間原子炉の中に装荷されているため、ウラン238が中性子を吸収することで生まれたプルトニウム239が更に中性子を吸収し、プルトニウム240がある程度生成されます。

さらに他の核分裂生成物(FP)なども含まれるため、原子力発電所で普通に利用された使用済み核燃料は核兵器にもともとかなり利用しづらいのです。

ここからさらに再処理などの工程を経ていくわけですが、ここでさらに高い核拡散抵抗性を実現する方法として「P3計画」とよばれるプランでは、プルトニウム238を10パーセント添加することが計画されました。

このプルトニウム238添加によってより高い核拡散抵抗性の高い核燃料を実現できます。

プルトニウム238は前述のとおり原子力電池にも利用される同位体であるため、そうした宇宙開発を目的とした生産をも兼ねることができます。

プルトニウム238の生産

プルトニウム238の生産方法としては、使用済み核燃料の再処理の際に群分離技術によって抽出されたネプツニウム237やとアメリシウム241を用いる方法が考えられます。

これらのネプツニウムやアメリシウムの同位体はウランやプルトニウムが中性子を吸収した際に核分裂を引き起こさず、そのままより重い元素となって生成される超ウラン元素のうち「マイナーアクチノイド(MA)」と呼ばれるものです。

マイナーアクチノイドは半減期が数百年から数万年とウラン等と比較して短く、そのため比放射能が強くあります。そのため高レベル放射性廃棄物(HLW)として取り扱われる、いわば「核のゴミ」とされてきました。

これらのマイナーアクチノイドは軽水炉などの熱中性子炉で核分裂連鎖反応に用いられる熱中性子では核分裂しにくく、中性子を吸収してしまいやすいので核燃料の反応度を下げてしまう「核毒」となってしまいます。一方で高速中性子を核分裂連鎖反応に用いる高速(増殖)においては、マイナーアクチノイドは高速中性子で核分裂しやすいため、これを燃料として燃やす事を目指しています。

一方でマイナーアクチノイドの熱中性子を吸収しやすいという性質を逆に利用すれば、熱中性子炉で中性子吸収による元素の生成を行うことができるということでもあります。この性質を利用して、ネプツニウム237に中性子を吸収させてネプツニウム238とし、これがベータ崩壊することでプルトニウム238を得られます。アメリシウム241においても同様で、中性子を吸収させるとアメリシウム242となり、これがベータ崩壊することでキュリウム242となり、さらにこれがアルファ崩壊することでプルトニウム238を得られます。

バーナブルポイズンとは

さらに原子炉内の中性子を食いつぶす「核毒」としては、核燃料のバーナブル・ポイズン(可燃性毒物)として利用できるということでもあります。原子炉に装荷した初期の燃料は、燃焼に伴って生み出される核分裂生成物などの影響によって徐々に低下する反応度(核分裂連鎖反応の進み具合)を補うための余剰反応度というものが持たされています。

しかしあくまでもしばらく燃焼させた燃料の反応度を補うものであるため、新しい状態のままでは万が一の場合に核燃料に過剰な反応度を与えてしまうため、安全性に問題が起きる場合があります。そのため初期の状態では燃料の反応度を抑え、燃焼に応じてその反応度の抑えを緩ませていくための中性子吸収材が「バーナブル・ポイズン」と呼ばれています。

この「バーナブル・ポイズン」としてのネプツニウム237やアメリシウム241が時間とともに中性子を吸収してプルトニウム238に変わることで減少することで生まれる正の反応度と、核燃料が燃焼によって低下する負の反応度が同じくらいになれば、燃料を安全に長期間ゆっくりと燃焼させることができます。原子炉に長期間燃料を入れておけるということは核燃料交換の手間を減らせるため、原子力発電の経済性にとっても有利にはたらきます。

また、アメリシウム241は半減期が約400年程度のアルファ崩壊各種であるため、これをそのまま宇宙用の原子力電池として利用しようという動きもあります。

つまり、これまでゴミとされてきたマイナーアクチノイドは、

といったような有用な元素としての活用方法も存在するのです。

例えばアメリシウム241はビルや家庭用の煙探知機の線源として日本でも一部で利用されていますし、
海外では現在でも一般的な方式として広く利用されています。

マイナーアクチノイドは当然ながら人工的に生産される人工元素です。
これらをゴミとして切り捨てるだけでなく、うまく活用していく方法が実用化され続ければと思います。

参考文献:
P3計画と「Protected Plutonium Utilization for Peace and Sustainable Prosperity」に関する第1回国際科学技術フォーラム

BOOTHにて宇宙開発や原子力関連の同人誌を販売しております。

宇宙開発・原子力・核兵器の同人誌10冊セット 核物質の同人誌 ~知られざるウランとプルトニウムの科学・技術~ (3部作セット)