高速炉「BN-800」とバイパック核燃料

ロシア最新鋭のナトリウム高速炉

ロシアのエカテリンブルク市近くに存在するベロヤルスク原子力発電所では現在ナトリウム冷却高速原型炉「BN-600」に加え、同じナトリウム冷却高速炉の実証炉となる最新鋭の「BN-800」の運転が行われています。

BN-800のあるベロヤルスク原子力発電所

ベロヤルスク原子力発電所(Credit:ROSATOM)

将来的にはこの「BN-800」を元に発展型の「BN-1200」が商用炉として2020年代には運転を開始する予定です。「BN-800」自体は1980年代に建設が開始されましたがソ連崩壊やチェルノブイリ原発事故などの要因で建設が一旦中断したのち、2006年に建設が再開されたものです。

「BN-800」は本格的なMOX燃料(混合酸化物燃料)利用を前提とした原子炉となっています。当初ロシアはウラン濃縮施設は豊富にあったものの、核分裂性プルトニウムを核燃料とするMOX燃料工場がなかったため、「BN-600」においてはプルトニウムを用いない濃縮二酸化ウランを燃料として運転を行なっていました。

BN-800の炉心

BN-800の炉心(Credit:ROSATOM)

ウラン235はプルトニウムと比較して核分裂で生じる中性子の平均数が少し少ないため、MOX燃料と比較すると二酸化ウラン燃料では十分な燃料増殖を行う事ができず、高速増殖炉ではなく高速炉として運転されています。

高速炉と高速増殖炉の違い

高速増殖炉は、燃焼させた核燃料以上に核燃料を生み出すことを目的とする原子炉であるため、

などの工夫がなされています。しかし単に高速中性子を利用した核分裂連鎖反応により原子炉を運転し、燃料の増殖を目的としない場合は、高速増殖炉ではなく高速炉と呼びます。

燃料増殖のあるなしに関わらず、高速炉のメリットとしては

などが主に挙げられます。

高速炉のメリット

液体金属冷却材は沸点が高く、熱輸送能力も高いため、原子炉の運転温度を高くすることができます。そのため軽水炉よりも熱エネルギーを電気エネルギーに変換する効率が高くなります。

高速中性子を核分裂連鎖反応に用いる場合、核分裂で生まれた核分裂生成物(FP)と呼ばれる物質に中性子が吸収されてしまう確率が小さくなるため、核燃料の燃焼が進んでも、核分裂連鎖反応の進み具合が熱中性子炉と比較して弱まりにくいという性質があります。核燃料に不純物が増えても燃やし続ける事ができるのです。そのため核燃料をより効率良く利用できます。

また、アメリシウムやネプツニウム、キュリウムといった物質は核燃料が中性子を吸収した時に核分裂せず、そのままより重い元素になってしまうことで生み出されます。これは従来の熱中性子炉では中性子を吸収してしまうばかりで核分裂を起こさず、長い半減期を持つ放射性廃棄物としてその処理が面倒なものでした。

しかしマイナーアクチノイドは高速中性子では核分裂しやすくなる性質があるため、これを核燃料に混ぜて原子炉に装荷すれば、ゴミを減らせるだけでなくそこからエネルギーも得られるというメリットがあります。

核兵器用プルトニウムを燃やす

また、ロシアの場合は冷戦が終結して解体された核兵器から取り出された兵器級プルトニウムの処分方法の一つとして、このベロヤルスク原子力発電所の「BN-600」や「BN-800」で燃焼させるという計画があります。

核兵器から出たプルトニウムを原子炉で核燃料としてエネルギーを得て、核拡散も防ぐという二重のメリットがあります。

BN-800の核燃料集合体

BN-800の核燃料集合体(Credit:NIIAR)

しかし核兵器のプルトニウムは兵器級プルトニウムと呼ばれ、非常に富化度(核分裂性プルトニウムの割合)が高くなってしまっています。当然そのまま原子炉に装荷するわけにはいかないため、核燃料として加工する必要があります。

日本の旧動力炉・核燃料開発事業団(現・JAEA日本原子力研究開発機構)がロシアと共同で開発したバイパック振動充填法と呼ばれる方法で、核兵器のプルトニウムをウランと混ぜて粉砕し、乾式再処理によって粒状にMOX燃料としたものを振動によって充填するというものです。

通常は硝酸の水溶液で溶解させ、転換した上で焼き固めるという「湿式法」と呼ばれる方法で製造されるペレット燃料と異なり、水溶液を用いず電気分解によって核燃料を取り出せる「乾式法」を用いるバイパック燃料は製造プラントをコンパクト化し、コストも安くできる上に作業員の被ばくリスクも少ないというメリットがあります。

この方法により、兵器級プルトニウムを原子炉で核燃料として利用できるように加工されました。こうして製造された元・核兵器だったプルトニウムを発電のために使うことができます。

このバイパックMOX燃料を製造する工場がマヤーク核施設で稼働を始め、「BN-800」で利用されるMOX燃料もここで製造されており、「BN-800」の運転開始後はここで製造されたMOX燃料を利用します。

「BN-800」は初期の装荷は濃縮された二酸化ウラン燃料ですが、二次装荷以降はMOX燃料が利用され、解体核兵器のプルトニウムも近い将来には利用される予定です。

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