プルサーマルと高速増殖炉
さまざまな核燃料
ひとくちに核燃料といっても様々なものがあります。天然に存在するウランのうち、核分裂しやすいウラン235の割合を天然そのままの0.7パーセント程度にした「天然ウラン燃料」や、その割合を3パーセント程度まで高めた「低濃縮ウラン」、20パーセント以上まで高めた「高濃縮ウラン」など、ウラン235の割合によって異なるほか、元々は金属として存在するウランを金属そのままで利用する「金属燃料」、セラミック状に焼き固めた「酸化物燃料」、窒素と結合させた「窒化物燃料」など化学的な組成においても様々な種類が考えられています。
二酸化ウランのペレット(Credit:USNRC)
そして、一般的な軽水炉と呼ばれるタイプの原子力発電所では核燃料に低濃縮ウランが使用されています。これは核分裂の連鎖反応が起こりやすくなるよう、核分裂を引き起こす中性子の速度が遅くさせるための減速材に軽水(いわゆる普通の水)が使用されています。この水は原子炉を冷却し、その熱を取り出して発電に利用されるものでもあります。
水はこうして中性子を減速させる働きもあるのですが、中性子を吸収してしまいやすい性質もあります。そのため天然ウランのままでは核分裂で生じた中性子が水に吸収されてしまうことで核分裂の連鎖反応が起きなくなってしまいます。そのため濃縮と呼ばれる工程を経ることで燃料に含まれるウラン235の割合を増やすのです。
軽水炉用の核燃料集合体(Credit:USNRC)
こうすることで容積あたりに存在する核分裂しやすいウラン235の密度が増えるため、中性子が水に吸収されてしまう分を差し引いても臨界に達することができ、原子炉を運転できるようになります。
使用済み核燃料とは?
さて、原子炉に装荷された核燃料は原子炉の運転に伴ってどんどん核分裂し、ウランの核分裂によって生じる核分裂生成物(FP)や、ウランが核分裂せずに中性子を吸収することで生み出されるマイナーアクチノイド(MA)がたまってきます。
これらは核分裂の連鎖反応に必要な中性子を吸収して食いつぶしてしまう性質があるため、ある程度原子炉で燃焼させた核燃料は「使用済み核燃料(SF)」として交換する必要があります。
この使用済み核燃料には核分裂生成物やマイナーアクチノイドといった原子炉で生成された元素のほか、燃え残ったウラン235や、燃えにくいウラン238が中性子を吸収して生み出した燃えやすいプルトニウム239などが含まれています。
様々な放射性元素を持つ使用済み核燃料は、そのままでは新しい燃料としてかなり危険です。新品の核燃料はほぼ純粋なウランの状態であるため、半減期が数億年以上のウランが持つ放射能は弱く、また放射性崩壊に伴って放出される主な放射線はアルファ線であるために遮蔽もしやすくあります。多少近寄ったり燃料を手で触れた程度ではどうということもありません。
しかし一方で使用済み核燃料に含まれる核分裂生成物は非常に不安定であるために比較的半減期が短く、強い放射能を持ちます。またガンマ線などの透過性の強い放射線を出す元素も多く、特に防護もせずに近寄れば致死傷の放射線を短い時間で浴びることになってしまいます。さらにこの放射線が放出されると同時に崩壊熱と呼ばれる熱エネルギーも発生するため、使用済み核燃料は非常に高温になります。そのため使用済み核燃料は水の入ったプールなどで数年間冷却され、ある程度まで放射能や崩壊熱が低下するのを待ちます。
使用済み核燃料の行方は…
そして何年か経ち、ある程度冷やされた使用済み核燃料はどうなるのでしょうか。ひとつはそのまま埋めて捨ててしまう方法があります。「ワンススルー」と呼ばれるこの方式は使用済み核燃料がそのまま廃棄物となります。元々のウランとほぼ同等の放射能になるまでには10万年かかるとも言われ、その超長期間の管理がしばしば原子力発電の問題として挙げられています。
一方で「再処理」という方法があります。使用済み核燃料を化学薬品で処理し、含まれる燃え残りのウランや、生み出されたプルトニウムを取り出し、再度原子炉で燃やすというものです。こうすることでいわゆる「核のゴミ」をリサイクルによって減らす事ができます。これが「核燃料サイクル」と呼ばれるものです。
核燃料サイクルでは「核のゴミ」を減らしつつ、ウランやプルトニウムといった資源を有効活用することになります。日本でも青森県六ケ所村に再処理施設があり、ここで原子力発電所からの使用済み核燃料を再処理する形をとっています。
そしてこの核燃料サイクルの中核となるのが「高速増殖炉」です。一般的な軽水炉から出る使用済み核燃料には核分裂しやすいウランとプルトニウムがそれぞれ約1パーセントづつが含まれる程度であり、最初ウラン235が3パーセント程度だった所から見ると核燃料として使える部分は減ってしまっています。しかし高速増殖炉は「燃やした以上に燃料を作り出せる原子炉」であるため、燃料を増やすことができます。
これは核分裂の連鎖反応を維持するのに高速中性子を用いることで、核分裂が起きる確率よりも、ウラン238がその高速中性子を吸収してプルトニウム239に変化する確率が上回るために可能となります。
高速増殖炉では核燃料としてプルトニウム239やプルトニウム241を利用したMOX燃料が利用されますが、これは中性子を吸収した際に放出する中性子の数がウラン235のそれより多くあるため、中性子を利用した核燃料の増殖に有利なためです。
この高速増殖炉で使用するプルトニウム燃料に、先の軽水炉の使用済み燃料から取り出したプルトニウムを利用できるほか、高速増殖炉で作り出したプルトニウムを再び高速増殖炉で使用することで、燃えにくいウラン238からどんどん燃料となるプルトニウムを作り出すことができます。
ウラン資源の殆どを占める燃えにくいウラン238をどんどんプルトニウム燃料に変えることができるため、この「高速増殖炉サイクル」によって数千年にわたって安定的なエネルギー供給が可能になると言われています。しかしながらこの高速増殖炉の建設コストは高く、増殖したプルトニウム燃料のコストも、ウラン資源を採ってくるよりも高くついてしまうなどの問題で高速増殖炉サイクルの商用化はしばらく先であると考えられています。
しかしながら軽水炉の使用済み核燃料の再処理によってプルトニウムはどんどん作られてきてしまうため、高速増殖炉がなければそのプルトニウムを使う「アテ」がしばらく無いという事になってしまいます。このままでは折角取り出したプルトニウムも資源どころか放射性廃棄物になってしまいます。
プルサーマル計画
そこでプルトニウム資源の有効活用として、そのプルトニウムを利用したMOX燃料を高速増殖炉ではなく従来の軽水炉で燃やすという「プルサーマル計画」が考えられました。プルサーマルという言葉はプルトニウムのプルに、軽水炉などの熱中性子炉と呼ばれる、減速された中性子を用いる原子炉などを示すサーマルを合わせた言葉となっています。
これにより使用済み核燃料から再処理によって抽出されたプルトニウムをもう一度軽水炉で燃やしてエネルギーを得ることができます。
しかし軽水炉でプルトニウム燃料を使用した場合、中性子がプルトニウムに吸収されてできるアメリシウム241などの中性子を吸収しやすいマイナーアクチノイドの同位体や、プルトニウム240やプルトニウム242などの熱中性子では燃えにくいプルトニウムが多く含まれてしまうという問題があります。これらの同位体は高速中性子を用いる高速増殖炉などでは核分裂させることができるのですが、熱中性子を用いる軽水炉では核分裂しにくく中性子を吸収して食いつぶしてしまいやすい傾向があります。
プルサーマルによって作り出された燃えにくいプルトニウムは、再処理の工程で燃えやすいプルトニウム239や241と分離するといったことも難しく、プルサーマルでは使用済み核燃料がリサイクルできる回数にある程度の制限があります。あまりに燃えにくいプルトニウムがたまりすぎると、軽水炉ではそれらが炉心の中性子を食いつぶして臨界が維持できなくなるためです。
そのため核燃料サイクルを長期にわたって維持し、安定的な原子力エネルギー利用のためには高速増殖炉が将来的に必要になるということなのです。プルサーマルは高速増殖炉が普及するまでの「つなぎ」のようなものと考えられます。
群分離も、核変換も、あるんだよ
使用済み核燃料の再処理においては化学薬品を使うぶん、低レベル放射性廃棄物(LLW)などもその過程で発生しますが、これは核燃料サイクル全体で見た時に、長期間そのサイクルを維持することで使用済み核燃料などの高レベル放射性廃棄物(HLW)が抑えられる量の方が多くなるとしています。
さらにこの再処理を高度化し、使用済み核燃料に含まれるマイナーアクチノイドを単体で分離する「群分離技術」を用いることで、高速増殖炉の高速中性子や加速器駆動未臨界炉と呼ばれる加速器によって駆動する原子炉で燃焼させる「核変換処理」を目指しています。マイナーアクチノイドの半減期は長いもので数万年に及び、高レベル放射性廃棄物の超長期間の管理が必要になる理由の一つとなっています。そのためこの核変換処理によってマイナーアクチノイドを減らし、管理が必要な期間を300年程度まで短縮することで、放射性廃棄物を安全に管理可能な状態にできます。
そしてこの群分離技術の実用化は、宇宙用原子力電池の生産に必要なネプツニウム237の取り出しや、他にもレアメタルの同位体なども取り出せるなど、原子力技術の発展・応用も見込めるのです。
現在でこそコストという問題が大きくありますが、将来的には高速増殖炉の核燃料サイクルと再処理技術・核変換技術は言わば近未来の錬金術となる可能性が見込める上、核燃料増殖や核変換処理の実用化は、原子力発電をより安全に長期間安定して利用できるという代えがたいメリットがあります。
逆に言えば現在日本に溜まっている使用済み核燃料は資源としての位置付けにありますが、核燃料サイクルを含めた原子力発電を止めてしまえば行くアテのない危険なゴミになってしまいます。原子力発電や核燃料サイクルはその是非が問題視されることもありますが、止める事でリスクが低減される訳でもないのです。
安全な次世代原子炉や高度な再処理技術は、技術の発展によってリスクを減らしつつ、より多様で使いやすい原子力を実現してくれるのです。