宇宙用原子炉の特徴

宇宙用原子炉とは人工衛星や宇宙探査機に搭載することを目的とした原子炉です。一般的な人工衛星や宇宙探査機では電源として太陽電池が搭載されていますが、太陽から遠く離れた場所でも大電力を確保できる宇宙用原子炉を搭載できれば、イオンエンジンなどの電気エネルギーを利用した宇宙推進システムを最大限有効活用することができます。

宇宙用原子炉の構成要素

宇宙用原子炉(宇宙炉)は地上の原子力発電所などで利用されている原子炉と比較して様々な面白い特長を持っています。
宇宙炉の世界を探ってみましょう。

核燃料

宇宙で用いる構造上の特長としては、小型化するために核燃料が非常に「濃く」なっています。

ウランのうち核分裂しやすいウラン235が核燃料として用いられますが、この同位体は天然には0.7パーセント程しか存在しません。そのため一般的な沸騰水型軽水炉(BWR)や加圧水型軽水炉(PWR)といった軽水炉(LWR)においては、ウラン燃料全体に占める核分裂しやすいウラン235の割合を3パーセントほどまで濃縮して使っています。

一方で宇宙用原子炉では臨界状態で原子炉を運転するのに必要な核燃料をできるだけコンパクトにするため、90パーセント以上まで濃縮しています。核兵器に使われるような高濃縮のウランにすることでロケットにも搭載できるような小型の原子炉を実現しています。

熱中性子炉は減速材を使う分、中性子が核分裂を引き起こしやすくなるため、臨界に必要な核燃料の量(臨界質量)が小さくて済むというメリットがあります。

減速材には水素化ジルコニウムが主に用いられていますが、運転に伴う高温でジルコニウムから水素が離脱しにくいように工夫する必要があります。

一方で高速炉は必要な核燃料は多くなるものの、核分裂で生まれた核分裂生成物(FP)による中性子吸収の影響が小さいため、反応度が低下しづらく、高い燃焼度で長期間の運転を行えます。そのため外惑星探査などを目指したSP-100などの原子炉は高速炉として設計されています。

反応度制御

原子炉を運転するには中性子を吸収しやすいホウ素10などで作られた制御棒を用いて中性子の量を調節するのが一般的ですが、地上のように棒を抜き差しするタイプですと場所も取ります。そのため、炉心の中性子を減らして制御をする制御棒方式ではなく、炉心の外へ出ていこうとする中性子を、反射体と呼ばれる中性子を反射しやすい材料によって、炉心に戻す方法で炉心の中性子の増え方(反応度)を調節し、出力を制御する方法が用いられています。反射体を回転させて炉心の方に向ければ向けるほど炉心に存在する中性子が増えるため、そのぶん核分裂が増加して原子炉の出力が上がるという仕組みです。

また宇宙用原子炉は打ち上げるまで臨界に達することが絶対に無いよう、安全棒と呼ばれる中性子吸収体が装備されている場合があり、これは打上げ後分離されることで原子炉の運転ができるようになります。

また運転に必要な反射体を非常時には外部へ投棄することで原子炉の運転を止めるといったシステムも備わっています。

冷却材

原子炉を冷やし、発生した熱を輸送して利用するための冷却材には一般的な水ではなく、高速増殖炉「もんじゅ」のようなナトリウムや、ナトリウム・カリウム合金(NaK合金)やリチウムといった液体金属冷却材が使われます。
これは核燃料が高濃縮ウランであるため、密度あたりの発熱量が非常に大きいことや、水では冷却能力もさほど高くない上、沸騰しやすいため、高圧環境が必要であることから宇宙での利用に向かないためです。

液体金属冷却材は除熱効果が高い上に沸点が高いため沸騰しづらく、原子炉を加圧することなくそのままの圧力で運転ができるというメリットがあります。軽量かつ必要な冷却能力を安全に確保できる冷却材としてこうした液体金属が用いられるのです。

炉心を通過するため、できるだけ中性子を吸収しづらく(核分裂連鎖反応の邪魔をしにくい)また高速炉の場合はできるだけ中性子を減速させない冷却材が選ばれます。

打上げ前後など、原子炉を運転していないときは低温であるため金属冷却材は固化してしまいます。そのため打ち上げる時は外部からの電源供給で冷却材を余熱して液化しています。

遮蔽体

原子炉の運転によって発生する中性子やガンマ線が宇宙機に影響を与えないように放射線遮蔽体が設置されています。これは中性子遮蔽用には水素化ジルコニウムや水素化リチウムが用いられ、ガンマ線の遮蔽にはステンレスやタングステンなどが用いられています。

中性子遮蔽体とガンマ線遮蔽体はサンドイッチされた状態で宇宙機側に取り付けられます。
遮蔽は宇宙機の側のみの取り付けられるため、宇宙用原子炉は炉心を頂点とした円錐形のようなデザインになっているのが特長です。

発電

発電は原子力発電所のように水を沸騰させてその蒸気でタービンを回し…といった方式ではありません。熱電変換素子のゼーベック効果によって、原子炉からの熱と宇宙空間との温度差を利用した発電を行う他、ソ連の「トパーズ」炉で実用化された熱電子発電と呼ばれる方式があります。

これは原子炉にセシウムを通過させる事で熱電子を効率的に放出させ、その電子を陰極となるエミッターから陽極となるコレクターへ飛ばすことで起電力を得ています。搭載されたセシウムを使い切ってしまうと発電効率が著しく低下してしまうという欠点はありますが、その熱エネルギーを電気エネルギーへと変換する効率は熱電変換素子よりも高いと言われています。

このように地上の原子炉と比較すると非常に個性的なのが宇宙用原子炉の面白いところです。膨大な熱エネルギーをもたらす宇宙用原子炉は探査機などの宇宙機の電源としてだけではなく、高温を利用した氷の掘削なども考えられています。

新しい惑星探査の可能性を切り拓いてくれるであろう宇宙用原子炉がいつか宇宙に飛んでいく様子を見ていたいものですね。

参考文献:
Nuclear Reactors for Space(WNA)
ソヴィエト連邦における宇宙用原子炉の開発とその実用(るーしゃんず)

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