放射線と放射能の違い
一緒によく聞く言葉に「放射線」や「放射能」というものがあるかと思います。「放射能」とは、「放射性物質」が「放射線」を出す能力の事を指します。例えば電球を「放射性物質」とすると、「放射線」はその電球が出す光です。「放射能」はその電球のワット数、明るさに例える事ができます。
つまり「放射線漏れ」と「放射能漏れ」には、電球の光が漏れているのか、それとも電球がゴロゴロと転がってくるか、という違いがあります。
放射線の正体は粒子や電磁波です。私達が普段身近な光や電波の仲間です。では、「その放射能を持つ放射性物質が出す放射線」というのはどういうものなのでしょうか。
原子核を構成する「陽子」と「中性子」、この2つの粒子の数のバランスが悪く、不安定な原子核が「放射性物質」の正体であり、これがある一定の確率で「放射性崩壊」という現象を引き起こします。これは不安定な物質がより安定した物質になろうとする現象で、これが放射性物質から放射線が出てくる原因です。
放射性崩壊には様々なものがありますが、大きく分けて主に3つの放射性崩壊があります。中性子2個と陽子2個で構成されるヘリウムの原子核が、原子核から分裂して飛び出していく「アルファ線」、原子核の中性子が陽子へと変化し、その時に電子が飛び出していく「ベータ線」、また余分なエネルギーを電磁波として放出する「ガンマ線」があります。
アルファ線
「強い相互作用」と呼ばれるエネルギーで陽子と中性子がしっかりと結びついている原子核から、ある一定の確率でそのエネルギーの壁を突き抜けるという「トンネル効果」と呼ばれる現象でヘリウム原子核が飛び出していくことで引き起こされます。エネルギーが強く、紙一枚で遮ることができるのが特徴です。
放射性の元素が崩壊しアルファ線を出す様子
ベータ線
「弱い相互作用」という力により、原子核の中性子が陽子へと変化する際、ニュートリノという素粒子と一緒に電子が放出されます。比較的透過しやすく、鉄板などで遮ることができます。
ガンマ線
アルファ崩壊やベータ崩壊などで変化した原子核が、励起状態という余分なエネルギーを持った状態であった時に、そのエネルギーが電磁波として放出されます。ものをかなり透過しやすく、厚いコンクリートや水などで遮ることができます。
自発核分裂
上記の主たる3つの放射性崩壊の他に、「自発核分裂」と呼ばれる現象を起こす物質もあります。これはアルファ崩壊に近い現象で、アルファ崩壊が原子核の一部分がヘリウム原子核として飛んでいくとするなら、自発核分裂は原子核がほぼ半分に裂ける現象です。この時には大きなエネルギーが放出され、原子核の中性子がそのまま「中性子線」として飛び出します。中性子は電気的な干渉を受けない粒子のため、透過力が非常に大きく、大量の水などで遮られます。この中性子は核分裂の連鎖反応を生じさせる働きなどを持ち、原子力技術において重要な役割を果たします。
私達の身の回りにあるほとんどの物質は放射線を出さない、「安定同位体」と呼ばれる物質です。これは過去に放射性物質であったものがどんどん崩壊し尽くした「残りカス」であると考える事ができます。例えば原子力発電所の核燃料や核兵器、宇宙探査機の原子力電池などにも利用されるプルトニウムは地球上には本来ほぼ存在しない物質でした。プルトニウムはアルファ崩壊を比較的引き起こしやすい物質であるため、地球が誕生した頃に存在したプルトニウムはこれまでの46億年の間に時間とともにどんどん失われたのです。
同じように恒星の核融合で誕生した物質も不安定であるが故にわずかな時間で崩壊してしまったものも沢山あるのです。そういった物質は、原子炉や粒子加速器といった装置で核反応を引き起こし、原子核を操作することで人工的に作り出す事もできます。ミクロの世界で引き起こされる現象から得られる知見は、壮大な宇宙や星の歴史を探る事も可能にするのです。そして新しい技術や産業としての恩恵をもたらしてくれるのです。