宇宙と元素のなりたち
「原子力」と聞くとどういったイメージがあるでしょうか。例えば原子力発電といった平和利用であったり、核兵器や原子力空母といった軍事利用があったりするかと思います。
原子力は様々な場面で利用されています。原子力発電はもちろん、放射線利用という面も含めれば、レントゲンを始めとする医療、ボタン電池や自動車のタイヤを高性能化するための産業利用、放射線は宇宙ロケットの非破壊検査を行う事もできます。そうした中で宇宙という分野に目を向けた時にも原子力は惑星探査などに大きな力を発揮するのです。
原子力は文字通り、原子のエネルギーを利用するテクノロジーです。原子とは何か、と言えば物質を構成している小さな小さな粒子です。原子がどれくらい小さいかと言うと、野球ボール1個に対する原子1個の大きさの差は、地球1個に対する野球ボール1個と同じ比率なのです。
原子の中心部分には「原子核」とよばれる陽子や中性子の塊が存在しています。そしてその原子核の周りには電子が存在しています。原子とは、原子核の陽子と中性子、そしてその周りの電子という3つの要素で構成されています。そのたった3つの要素が、私たち自身を含めた宇宙の創世から現代の先端技術までを繋ぐ物語を織り成しているのです。
原子力においては物質を構成する原子、その原子核が崩壊したり、真っ二つに分裂させたり、違う原子核同士をぶつけて融合させたりする際に発生する膨大なエネルギーを得ます。そして原子核をくっつけたり壊したりして「加工」するとその物質は別の物質へと変化します。逆に言えば、ある物質を違う物質へと変化させる際に、エネルギーが発散される現象を利用するのが原子力というわけです。
今から約137億年前、ビッグバンの直後にその膨大なエネルギーが開放されて間もなく、3分ちょっとで水素やヘリウムの原子核が構成されます。数十万年が経過して宇宙が膨張を続けると温度がどんどん下がり、電子が原子核に捉えられることで私達に身近な原子が形作られました。
そして軽い元素しか無かった宇宙ですが、恒星が光り輝く原理である核融合反応により、だんだんとより重い元素が合成されてゆきます。核融合で原子核同士がくっつけられ、エネルギーを発散させながらより重い元素が次々と合成されていくのです。また、巨大な星はその最期に大爆発を引き起こします。超新星爆発と呼ばれるそれによって非常に重い元素も合成されます。爆発する時にこれらの様々な元素が宇宙空間に撒き散らされ、それがまた集まる事で星が作られてきました。
鉄よりも重い、金や銀、そして原子力発電で利用されるウランやプルトニウムといった元素もこうして星の大爆発というとんでもないエネルギーの下で合成されます。
私たちの地球や、私たち自身も、宇宙がその長い年月と共に造り出した「星屑」でできているというわけです。自分たちの体を作っている原子は百億年くらい前はどこか違うよその星で人知れず作られたものなのです。
夜空に輝く数多の綺麗な星も、そこで様々な元素を合成しながらその核エネルギーで輝いているのです。多くの星が核反応で様々な物質を生産する、宇宙は言わば一つの原子炉なのです。