プルトニウム244を使用した保障措置分析
プルトニウムの同位体の中でも比較的質量数が大きく、半減期は最も長い約8000万年という特徴を持ちます。何度も中性子を吸収することでできるため、原子炉や核兵器においても殆ど生成されません。この殆ど存在しないという特徴を、核不拡散のための技術に利用しているのです。
同位体希釈分析法(IDMS)と呼ばれるこの技術は、水溶液などに含まれているプルトニウムの量を検出する際、スパイクと呼ばれるあらかじめ基準物質を一定量混ぜることで、その同位体比の変化から、元々の水溶液に含まれていたプルトニウムの量を特定できます。
原子炉で生成されるプルトニウムには、プルトニウム244は殆ど含まれないため、極めて高純度なプルトニウム244を用意できれば、非常に高い精度でプルトニウムがどれだけ存在しているかを知ることができます。IAEAが保障措置における核査察で用いるプルトニウム244を得るため、アメリカエネルギー省(DOE)は、数十年に渡って核施設で保管されていた照射ターゲットから分離する計画を実施しました。
サバンナリバー・サイト(SRS)では、冷戦時代に核兵器用のトリチウムや兵器級プルトニウムの生産を行っていたでは1970年代初頭に、原子炉の起動などに用いられるカリホルニウム252の生産を行っていました。カリホルニウム252は、プルトニウムに中性子を照射することで生産されるため、この中性子照射を行うための「Mark-18A」と呼ばれる照射ターゲットが多数製造され、K炉と呼ばれる原子炉で照射が行われました。
中性子の照射を受けたターゲットは化学的な処理を経て、目的のカリホルニウム等が分離されるのですが、一部のターゲットは処理を行わずにそのまま保管されていました。1970年代から保管され続けていたターゲットでしたが、ここには比較的多くのプルトニウム244のほか、カリホルニウム252の原料となるキュリウムの重い同位体も含まれていたことから2016年からオークリッジ国立研究所などで化学的な処理を行い、ロシアのVNIIEFが保有するS-2と呼ばれる電磁質量分離器によって同位体の濃縮が行われました。
一般的にプルトニウムにおいて同位体の濃縮というのはあまり馴染みがありませんが、プルトニウム244の場合は、質量数が一つ下のプルトニウム243の半減期が5時間程度と非常に短く、存在が殆ど無視できるため、他のプルトニウム同位体との質量差を利用した濃縮が可能となっています。ロシアで濃縮されたプルトニウム244はその純度が99.98パーセントにも及び、保障措置における高い分析精度を実現しています。